小説

【読書感想】川のほとりに立ち者は

文月

今回は2023年本屋大賞にノミネートされた寺地はるなさんが執筆した「川のほとりに立つ者は」を読んだ感想について書いていきたいと思います!

著者のプロフィール

著者プロフィール

著者:寺地はるなさん

1977年佐賀県生まれ。2014年『ビオレタ』第4回ポプラ社小説新人賞を受賞し、デビュー。2020年度咲くやこの花賞文芸その他部門を受賞。21年度『水を縫う』で第9回河合隼雄物語賞を受賞。

《他の著書一覧》
『夜が暗いとは限らない』『どうしてわたしはあの子じゃないの』『声の在りか』『ガラスの海を渡る舟』『カレーの時間』などがある。

本書より

文月

寺地さんの作品は今回初めて読みました。結構好きな部類の作品だったので、機会があれば他作品も読んでみたいと思います!

おすすめの人

どんな人におすすめなのか。

  • 恋愛だけでない、友情物語を読みたい方
  • 現実的な感動を味わいたい方
  • 救いとは何か知りたい方

恋愛だけでない、友情物語を読みたい方
後ほど概要を少し書きますが、作品は男女の恋愛要素を含み、楽しめる要素の一つだと思いますが、男同士、女同士の友情についてもよく描かれており、楽しめるポイントであると思います。

現実的な感動を味わいたい方
小説というと、創作なのでやや現実離れしたことが起こって、感動を生むこともあると思います。この作品は、現実的に起こりうる範囲内の事柄であって(作中の事故はあまり起こらないと思いますが)、登場人物も違いなく皆さんの周りに同じような方がいらっしゃると思います。そんな、現実的な範囲内で感動する物語を読みたい方におすすめだと思います。

救いとは何か知りたい方
助けを求める者と助ける者の考え方の違いについて考えさせられる作品だと思います。僕は助ける側になることが多いのですが、自分の行動を鑑みるきっかけになりました。

物語の概要

カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。

双葉社ホームページより:https://www.futabasha.co.jp/book/97845752457210000000

この物語は、傷を負って治りかけのような気持ちにさせられる。切なさ、痛み、優しさを感じることのできる作品です。

感想

主人公の考え方の変化

主人公である清瀬が店長として勤務する喫茶店『クロシェット』でアルバイトで働いている品川に対する態度の変化が一番大きかったと思います。

感想を書く前に、前提として物語の概要をもう少し補足します。

ここからネタバレ含みますので、ご注意ください!!

清瀬は松木と交際していたが、ある日松木が隠し事をしていることに腹を立て喧嘩してしまします。そのまま、二人は距離を置いている最中、松木は友人の樹と事故に巻き込まれ、意識不明となってしまします。

松木の秘密を確認すべく、松木の家で目にした手紙を読んで清瀬は松木の秘密を知ることになります。

松木の小学生の頃からの友人である、樹は文字の読み書きができないという悩みがありました。

大人になってから、樹が一目惚れした天音という女性と文通したいという要望を叶えるべく、樹は松木に読み書きを教えてくれと頼み、文字の読み書きの特訓をします。

松木は樹が悩み続けていることを知っていますし、清瀬にすら話さないことを徹底することで、樹の「誰にも言わないで欲しい」という願いを徹底して守っていたのでした。

また、樹が好きになった天音も、美人であるが故にいわゆるダメ男に引っかかるタイプの女性でした。そんな、ダメ男から脱出するために、樹を利用することになります。作中徐々に明かされるのですが、天音はかなり孤独で闇を背負った女性であると描かれています。

さて、この物語を通じて、清瀬はどのように変化していくのでしょうか。

清瀬は松木が書いた手紙を読んで、樹が文字の読み書きができない、おそらくディスレクシアであるというこを知ります。

ディスレクシア

学習障害のひとつとされ、脳機能の発達に問題があり、全体的な発達に遅れはないのに、文字の読み書きに限定して困難がある。知能の低さ、勉強不足が原因ではない。

https://jdyslexia.com/information/dyslexia.html

一般社団法人ディスレクシア協会ホームページ参照

樹や樹の親はただ頭が悪いで済ませていますが、樹本人はとても悩んでいるところに松木はしっかり寄り添って、共に努力をする姿を手紙を通じて清瀬は知ります。

そんな中、清瀬が体調を崩したことで、アルバイトの品川が様子を見ていてくれた場面があります。その際、実は品川がADHDであることが判明します。

ADHD(注意欠如・多動症)

発達水準から見て、不相応に注意を持続させることが困難であり、順序立てて行動することが苦手である。落ち着きがない、待てない、行動の抑制が困難。うつ病、双極性障害、自閉症スペクトラム症などを伴っていることもある。

https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease07.html

国立精神・神経医療研究瀬インターホームページ参照

今まで、品川に対し苛立っているだけで、本心ではいない方が良いとまで考えていただ自分の視野の狭さに清瀬は気づくことになります。

品川さんの話は、清瀬に強い衝撃を与えた。今までずっと他のスタッフに通じてきたことがどうして品川さんにだけ通じないのかと腹を立て、人格上の問題であると決めつけていた。

もしかしたらわたしは自分で思っているよりずっと偏見に満ちた人間なのかもしれない、と清瀬は思いはじめている。

川のほとりに立つ者は(寺地はるな)ポプラ社 より

ここで大切なのは、品川が清瀬に対して助けを求めていないということです。

できなかったとしても、他の人と同じように仕事をしたい。品川はその思いが強く、ずっと黙っていました。

また、清瀬は松木の手紙を通じて、天音が樹を利用していることを知り、天音がずっと孤独であったことを知ります。

天音に関わったことが原因で松木と樹が事件に巻き込まれ、怪我をすることになるが、清瀬は天音には友達が必要だと考え、救いの手を差し伸べようとします。

しかし、天音はその手を掴もうとはしません。

何度も試みますが、失敗します。

ここで、大切なのは、ここでもやはり助けられる側が助けを求めていないということです。

皆さんもこんな経験ありませんかね?

電車で席を譲ろうとしたのに断られた。

荷物を持とうとしたのに断られてた。

親切のつもりでも、相手が求めていないことが多々あるのではないかと思います。

もちろん、助けが必要だと思ったら、助けの手を差し伸べるのは全く悪いことではないので、すべきだと思います。

しかし、それを受け取られなかったからといって、助ける側が怒るのは違うと思います。求められなかった背景があるのだと考えて、そっと見守るということも時には大切なのだと清瀬は気づくと共に、僕も心に留めておきたい。そう思いました。

本作の最後に天音が救われようとしているように、自分が助けなくても、いつか必ず適切な他の誰かが助けてくれるそう信じて。

松木と自分の共通点

清瀬と付き合っている松木はなんだか自分と共有点があるのではないかと思いました。

その共有点は、秘密主義者であることですね。

松木は自分のこと、家族や友人のことをなかなか話しません。清瀬はそのことに少しモヤモヤというか、少し怪しむ場面があります。

序盤、松木は不思議君だなあなんて思っていました。

しかし、この秘密主義の真相を知った時、僕に似ても似つかぬものであると知りました。

松木が家族のことを話さなかったのは、主に母親の性格が原因で関係がうまくいっていおらず話していませんでした。これはなんとなく僕にも通ずる気がします。

うまくいっていないと友人でも恋人でも話すのは難しいものです。

また、友人である樹との関係(文字の読み書きを教えている)について、樹が文字の読み書きをできないことについて恥ずかしがっていること、努力をしていることを知っており、樹に恥ずかしい思いをしてほしくないそういう思いから、頑なに話さない姿勢を貫いていました。実に義理堅い男だなあと感心しました。

序盤僕に似ていると思っていましたが、物語が進むうちに、友達想いであり、義理堅く、さらに聡明であることが判明してきます。

はい、結果的に少しの秘密主義という点は共通していますが、僕と似ても似つかない、素晴らしい人間性を持った人だと思います。

友情物語

清瀬と松木は付き合っており、恋愛物語であるように見えますが(実際そういった面もあると思います)、僕は”友情物語”であると思います。

松木と樹の関係は小学生からの友人でした。

樹は明るく、当時体た小さくていじめられていた松木を庇ったたり、当時の松木にとっては憧れの存在でした。そいった経緯もあり、松木は樹のことを友人として尊敬しており、卒業文集にそのことを書く程”憧れ”てもいました。

一方で樹は自分が文字の読み書きができないことに対して松木が理解してくれていることから、信用できる存在として接しています。

そういったお互いに尊敬の念を持って接する場面がところどころに描かれています。

互いに義理堅く、男の友情物語の一面もあると思います。

松木が天音が樹を利用しているのではないかと疑うものの、樹が幸せであればそれで良いと見守っているところについては、冷たく感じるかもしれませんが、助けの手を差し伸べる側の心得「助けを受け取るか受け取らないかは相手次第」を十分心得ているところも友情が見えると感じます。

もう一方で、清瀬の友人篠ちゃんとの友情についても描かれています。

篠ちゃんはあくまでも僕の感想ですが、芯の強い女性でどっしりかめているなあと感じました。

清瀬のことを過剰に心配するでもなく、干渉しすぎず、ちょうど良い距離を保っています。

清瀬が松木との関係で悩んでいることふゃ、松木の秘密について相談したところ、最後まで話を聞く姿勢があり、的確なアドバイスも行なっています。

そんな友人がいたら、とてもここと強いですね。

天音と清瀬について、清瀬は天音の心の闇を知った後、なお友達になろうとしています。何度も冷たくあしらわれてもめげずに声をかけ続けます。

そのあたり、僕としては、清瀬に助けを求めているわけではないので放っておいたらいいのに。そう思いますが、酷いことをされてもなお、清瀬は天音を友達にして、救い出したいという思いが強かったのでしょう。

結果的に、清瀬の天音と友達になりたいという願いは叶うことはありませんでした。少しもやもやする気持ちもありますが、これはこれでよかったのかなと思います。

おわりに

全体として薄暗い雰囲気のある作品ですが、随所に優しさが見え隠れしていて、またミステリー要素もあり、飽きずに一気読みできました!

ADHDやディスレクシアなど障がいについて触れられている作品ですが、そのものをメインとしておらず、どちらかというと、そうでない側から見た世界の視点を変えることメインにしており、そこに気づきもあって、個人的には良い作品だと感じます。

文月

最後まで読んでいただきまして、ありがとうございます!

清瀬と天音の関係は清瀬の救いたいという強い思いが届かず切ない気持ちになりますが、最後に希望を見せてくれる物語。何度も読み返したくなる作品です。

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