小説

【読書感想】名探偵の生まれる夜 大正謎百景

文月

今回読んだ本はタイトルにもあるように青柳碧人さんが書いた小説「名探偵の生まれる夜 大正謎百景」です。

Twitterでフォロワーさんが読んでいるところを目にして、興味をそそられて買いました!

文豪や歴史上の人物を取り扱った物語ですが、非常に読みやすくて面白かったです。

作者紹介

青柳 碧人(あおやぎ あいと)さん

1980年千葉県生まれ。早稲田大学卒業。2009年『浜村渚の計算ノート』で第3回「講談社Birth」小説部門を受賞しデビュー。「西川麻子」「猫河原家のひとびと」など人気シリーズを手がける。19年刊行の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』で第17回本屋大賞にノミネートされる。その他の著書に『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』などがある。

(本書著者紹介より)

文月

青柳碧人さんの小説は今回初めて読みました。著者紹介を読むと中々面白いタイトルの小説を出していらっしゃるんですね。興味があるので、今度読んでみようと思います!

こんな人におすすめ

この本は以下の方々におすすめです。

  • 大正ロマンの雰囲気を味わいたい方
  • 小さな物語を読みたい方
  • 文豪や歴史的人物に興味のある方
文月

表紙が明治・大正っぽい雰囲気があって、趣があります。ですが、全体的に短い話で読みやすく、普段あまり小説を読まない方でも楽しんで読むことのできる小説だと思います。

あらすじ

この小説は、全8編あり、一応それぞれが別の物語として展開されています。実際に存在した文豪や歴史上の偉人が事件に挑むミステリー小説となっています。実際にいた人物ですが、物語は創作です。事実からの考察と空想から著者がミステリー要素を含ませています。

カリーの香る探偵譚

早稲田大学に通う平井太郎がある冬の日、岩井三郎が開いた探偵事務所に雇って欲しいと詰め掛けます。平井はただの探偵小説好きの青年であり、岩井は探偵の素質のなく、雇うことはできないと断るものの、なかなか引き下がらず、当時インドを英国の支配から独立させるために活動をしていたインド人ボースを捕まえることを条件に雇うことを約束するのでした。

平井の探偵小説好きが功を奏して、鋭い推理を見せつけます。平井は晴れて探偵となれるのかいかに。

野口英世の娘

アメリカで研究していた野口英世が日本へ一時帰国する時、同じくアメリカへ留学していた星は製薬会社の社長となり、帰国を待っていました。英世が現れると同時に英世の娘だと名乗る女(ヨネ)が現れます。

英世が日本を発つ前に飲み屋の女性と朝まで一緒に過ごし、その女の子どもであるというのです。英世も記憶になく、娘でないと言い切れない様子です。

英世は既に国内外で有名になっており、スキャンダルは避けたい。そう考えた星はヨネが本当に英世の娘なのか疑いを持ち、英世が日本を再び発つ日までに英世の娘ではないことを証明することを約束します。

果たして、結末はいかに。

最後は少し感動する展開になる…かも!?

名作の生まれる夜

鈴木三重吉は小説が大衆文化の中心となっている昨今、難解な小説が生まれる一方で、児童向けの小説が国が押し付ける昔話程度しかないことに対して問題意識を持っており、児童文学集を作ろうとしていました。

色々な作家に依頼するも、難しいと断られます。頼みの綱として、芥川龍之介に試筆を依頼するために、喫茶店で待ち合わせるところからこの物語はスタートします。

芥川はあまり乗り気でない感じだったので、芥川の創作意欲を沸かせるような話をします。

ある男が隣の家の女性に惚れ、神社に願掛けをし、願いが叶ってお付き合いすることになった。簡単に言うとこんな感じの話ですが、芥川はするどう洞察で真相を解き明かしていきます。

真相はいかに。

都の西北、別れの歌

吉岡信敬(よしおかしんけい)は芸術座(劇場)に籠っている旧早稲田大学教授抱月先生に会いに行ったところ、抱月に仕える書生の 中山晋平(なかやましんぺい)から抱月がなくなったことを聞かされます。

信敬はいわゆる陽キャであり、大学野球が創設された時に活躍していました。野球で活躍したのではなく、応援隊長として界隈では知らぬ者がいないほど有名になっていきます。

周りからの信頼も厚く、少し気の弱い感じの英文科の島村滝太郎(抱月)の相談を受けるなどして徐々に仲を深めていきます。そのうち、抱月の奥さん、娘とも交流を持つようになります。

抱月は演劇座をつくり、大衆に演劇の良さを普及することを夢に見ており、ある時、舞台女優の松井須磨子と道ならぬ恋に落ち、家族を捨ててしまいます。教授陣から散々責められ、早稲田大学教授の職を失ってしまいます。

抱月はおっとりした性格であるものの、周りを振り回してきた人生でありますが、弟子や同僚、信敬らし慕われており、最後に弔おうとしますが、そこで、狭い階段からどうやって抱月を部屋から出そうか考えていたところ、実は幅の広いもう一つの階段があることが判明します。ここがミステリー要素になっている作品です。

なんのために作った階段なのか。一同は推理しますが、なかなかスッキリする答えに辿り着けません。

真実を知っているのは、須磨子のみ。

果たして抱月が階段を作った秘密とは!?

夫婦たちの新世界

与謝野晶子と旦那の寛は大阪へ旅行にきていましたが、寛が昔付き合っていた女性のことを話してしまい(晶子の友人でもある)、晶子を怒らせてしまう。二人でロープウェーを乗る予定だったが、晶子のみ乗ることに。

ところが、そのロープウェーは途中で止まってしまいます。ぼーっとタバコを吸いながらロープウェーを見ていた寛は止まったことに気づきます。

偶然寛の隣にいた青年が偶然機械に詳しく、再びロープウェーが動き出します。

そもそもなぜロープウェーは止まってしまってしまたのか。

果たしてその真相は!?

ちょっぴり感動する要素もあるミステリーでした。

青年の正体に驚きと面白さがあります。

渋谷駅の共犯者

上野英三郎は今で言う東京大学の教授で、愛犬ハチを連れて毎日通勤していました。電車に犬を乗せることはできないので、最寄りの渋谷駅で待たせています。現代社会ではちょっと考えれないですよね💦

ある時、渋谷駅を降りると英三郎はひったくりに遭います。

盗まれたものは研究データのみでした。

警察の捜査が入るも解決せず、ある窃盗集団の長的な人間である富田銀蔵の知恵を借りることになります。

銀蔵は非常に頭の切れる人で、サクサクと解決していきます。

英三郎の研究データをひったくった犯人もあっさり特定し捕まえます。

ミステリー✖️人情物語

ハチの活躍にも注目してください!!

遠野はまだ朝もやの中

遠野の田舎から出ていくことを決めた花子だったが、朝もやの中、黒い怪物のような男に出会います。

花子はその黒い怪物についてしていました。黒い男は面白い話はないか聞いてきます、答えたら何も起こらず、話せなければ頭から食べられてしまうという、少し怖い話を過去お祖母さんから聞いたことがあったのです。

花子は面白いという話をするものの、花子にとっては訳のわからない言葉で黒い男から横槍が入ってしまいます。

この物語は、怪異譚のような感じで、あらすじは控えます。

終盤180度視点が変わって、不思議な体験のような感じで終わります。

姉さま人形八景

平塚らいてうはある絵の展示会にきていました。そこで、赤いちぎり絵に釘付けになります。作者に聞くと姉さま人形を解体して作ったものだということが判明します。

らいてふは姉さま人形について、コーキチという人物について連想します。

この物語は、姉さまが今までの短編で登場した人物を巡って最終的にまたらいてふのもとに姿を現した”めぐる”物語です。

コーキチをいう人物は何者で、各々がどのような思いで姉さま人形を受け取り、手放したのか。徐々に紐解かれていくストーリです。

感想

ここから少しネタバレを含みますので、ご注意ください!!

文化人・偉人✖️ミステリー

15年と短い大正の時代に生きた実際に存在した文化人、偉人を題材にした空想ストーリーです。名前は知っているけど、実際どんなことした人なのか知らなくても、この作品は何やっている人なのかしっかりわかるように描かれており、さらに、ミステリー要素を含む物語で飽きることなく最後まで読むことができます。

一見何をモチーフにしたのかわからない人物がいますが、物語の終盤で明らかにされて、「ああ、なるほど!」となる場面はとても気持ちの良い展開があります。

「カリーの香る探偵譚」では主人公岩井の元にやってきた平井ですが、探偵志望の探偵小説好き。するどい洞察力から捕まえようとしているインド人革命家の居場所を突き止めます。

そんな平井がこのまま探偵になるのかと思いきや、最終的に探偵小説か「江戸川乱歩」になります。

ありきたりな展開かもしれませんが、知っている人が多いからこそ、「こいつ誰やねん」から「ああなるほど」という展開は個人的にはスッキリして好きな場面です。

また、一つの物語で完全に完結する訳でなく、最後の姉さま人形八景にて、姉さま人形を巡り今までの物語を横断する構成になっています。

最後総まとめで物語を復習できる感じで、また、はじめから読みたくなってしまいますね。

全体を通じて感じたのは、「女性の強さ」が強調されているように感じました。

今でこそ、男女平等が当たり前、多様性を認める社会的な風潮があります。この時代はまだまだ男女平等からは程遠いものです。

そんな中でも社会に出て働く女性。夢を叶えるために、詐欺師まがいのことまでして手段を選ばない女性。舞台女優として成功し、最後まで一人の男を愛した女性。一人の女性を愛した女性。

強く逞しく美しく生きるその姿勢は惹きつけられるものもあり、痺れる部分もあり。

女性の社会進出という観点で、「令和」に通じるものが少しはあるのではないかと思いました。

印象深かった場面について

一は三百円の入った封筒を、ヨネの手に握らせた。

「行ってきなさい」

「えっ?」

「金を騙し取ろうとしたことはけして許されることではない。だがそれでもなお、目標のある者にやる金なら惜しくはないと、心が私に訴えるのだ。……間違っても、飲み明かすんじゃないぞ」

ヨネは唇を振るわせ、初めの顔を無言で見つめていた。そして、

「ありがとうございます」

ぎゅっと封筒を握りしめた。一は満足し、社員たちを見回す。

名探偵の生まれる夜 大正謎百景(著:青柳碧人)野口英世の娘 より

ここは、英世の娘であると偽っていたヨネに対して、ヨネが本気で舞台女優を目指して、留学するために外国語や舞台の勉強を本気で取り組む姿を見た一が、ヨネにお金を渡すシーンです。

実際お金を持つようになったり、有名になったりすると、お金にたかろうと企む人が近づいてくるという話をよく耳にします。本当かどうか、僕はお金持ちや有名人になったことがないのでわかりませんが、対象の時代にもあったようです。

個人的に登場した時からイケすかない感じがしていて、ヨネに対してあまり良い印象はありませんでした。しかし、ヨネはただお金をたかる人ではなかたのです。

夢を叶えるなら手段を厭わない姿勢・努力家なところにこの時代の女性の強さをしっかり描いているものだなと思います。

「明治の若者の志を継いで世界へ飛び出す大正の若者よ。君は紛れもなく、野口英世の娘だと。」

名探偵の生まれる夜 大正謎百景(著:青柳碧人)野口英世の娘 より

その目から、涙が一粒、溢れる。

「呆れるくらいに、優しいのよ」

吉岡は強く思った。松井須磨子という女優こそ、やはり島村抱月という男にいちばん向き合っていた人間なのだと。勝ち気でわがままでがめつい女であるにせよ、彼女を愛した抱月の人生は、幸せだったのだと。

名探偵の生まれる夜 大正謎百景(著:青柳碧人) 京都の西北、別れの歌 より

ここに出てくる須磨子はあくまでも主人公吉岡の観点から見えた人物像なので、引用に記載したとおり、勝ち気でがめつい性格の人間であると描かれています。

抱月は須磨子と出会った時にはすでに家庭を持っていたにも関わらず、須磨子の女優としてのカリスマ性に惹かれたのか、家庭を捨てて、須磨子と共に暮らすことになります。

抱月は家族を捨てたものの、金銭面での仕送りは継続しており、須磨子と鉢合わせをしないために(須磨子が不機嫌になるため)、演劇座の舞台裏に階段を作ってまで、鉢合わせしないように工夫し、仕送りを続けました。

これは、なぜ舞台裏に使いもしないような階段を作ったのかというミステリーの答えですが、唯一、須磨子だけが真実を知っていました。

知っていてもなお、取り壊すことはせず、階段に物を置いて邪魔をするものの、仕送りをやめて家族と断絶するようには言わない。抱月の優しさも知っているからこそ邪魔をするのみ。

その抱月の優しさに向き合っていたからこそ吉岡は抱月に一番向き合っていたと評したのだと僕は思いました。

おわりに

文月

いかがでしたでしょうか。

一見文豪や偉人がモチーフになっていますが、内容はとても読みやすいものでした。また、大正の話ですが、現代社会に通じるものたがあります。

どの物語も短くてサクッと読めます!

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